アトピー性皮膚炎の予防・改善

アトピー性皮膚炎はアレルギー症状の一種なので、アレルギー症状の予防・改善効果を持つヨーグルトがアトピー性皮膚炎の予防や症状改善に効果的というのは当然とも言えます。

しかし、同じアレルギーである花粉症などへの効果と比べると研究報告数が少なく、また実験結果における効果性の表現も控え目で効果が高いという印象は受けません。

それどころか、詳細は後述しますがヨーグルトがアトピー性皮膚炎を悪化させる要因になることもあるようです。

とはいえ、ヨーグルトがアトピー性皮膚炎の症状が改善もしくは緩和したという実験報告があることは確かで、その根拠もある程度説得性のあるものです。効果性が控え目に語られてしまうのはアトピー性皮膚炎が短期間の臨床実験で改善が明確に確認できるような病気ではなく、またヨーグルトの作用も緩やかという背景があると思われます。

いずれにせよ色々調べてみると、程度の問題はありますがヨーグルトにアトピー性皮膚炎の予防・改善効果が期待できるのは確かなようです。ここではそれら調べた内容をまとめていますのでご興味があればお読みください。

アトピー性皮膚炎の原因

ヨーグルトの効果性をご説明する際に必要なのが、アトピー性皮膚炎の知識です。特にアトピー性皮膚炎の原因を知ることは、効果を理解する上で非常に重要です。

アトピー性皮膚炎とは?

アトピー性皮膚炎とは日本皮膚科学会による定義では「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」とあります。

つまり、「皮膚の痒みが酷くなったり軽くなったりを慢性的に繰り返す症状」ということです。

アトピー素因とは?

前述した定義におけるアトピー素因には2つあり、一つは「気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患を自分もしくは家族が発症したことがある」というもので、二つ目は「IgE抗体を産生しやすい素因」となっています。

ちょっと分かりにくいですが、簡単に言うと一つ目は遺伝等に起因する「体質」のことであり、二つ目はIgE抗体を産生しやすいという「アレルギーの内容」を示しています。

つまり、アトピー素因とは「IgE抗体産生しやすいアレルギー体質」のことで、いわゆる「I型アレルギー(アレルギーの医学的分類)」のことを言っていると思われます。

アトピー性皮膚炎の症状と深く関わるTh2細胞

IgE抗体を起因とする「I型アレルギー」の原因は主に免疫細胞の一つであるTh2細胞というものが活性化しすぎた状態によって引き起こされることが分かってきています。(詳細はこちら「ヨーグルトによるアレルギー症状の予防・改善」をご覧ください。)

Th2細胞はアトピー性皮膚炎の原因および症状そのものにも深く関わっていることが確認されています。

アトピー性皮膚炎の直接の原因は皮膚が保湿できず乾燥することで、肌のバリアー機能が弱くなるため、外部からの刺激を受けやすくなり、免疫が過剰に反応してしまうことにあります。

なぜ皮膚の保湿ができなくなるかに関しては、遺伝や食べ物、環境的要因など様々な説があり、根本的な原因は明確にはなっていません。

ただし、保湿ができなくなるのは皮膚の角質層におけるセラミド及び顆粒層におけるフィラグリンという成分が不足しているせいだということが分かっています。

そして、このフィラグリンが不足する原因にはTh2細胞が活性化して放出されるサイトカイン(IL-4,IL-13)が影響していることが確認されています。

また、肌のバリア機能が弱まっていると外部からの刺激を受けやすくなりますが、その状況下でも害が少ないはずの花粉やホコリなども反応して痒みや炎症が出ることがあります。

これは免疫細胞であるTh2細胞が過剰に活性化して、花粉やホコリなど害が少ないモノにも過剰反応して有害物と認識し、IgEという抗体を作り攻撃を開始するためです。この攻撃を行う時に痒みや炎症が発症するのです。

また、Th2細胞の過剰活性そのものも直接アトピー性皮膚炎の症状の要因となっています。Th2細胞が過剰に活性化することで放出されるサイトカイン(IL-31)は皮膚の痒みを誘導する性質があることが分かっています。

このように根本的な要因は解明されていないものの、免疫細胞であるTh2細胞というものがアトピー性皮膚炎の原因および痒みなどの症状を引き起こす要因と大きな関係があることが分かってきています。

ヨーグルトがアトピー性皮膚炎に効果的な理由

ヨーグルトがアトピー性皮膚炎に効果的な理由は大きく3つあります。

1.Th2細胞の活性化を制御する

前述したようにアトピー性皮膚炎の原因や症状にはTh2細胞が深く関わっています。Th2細胞とは主に「抗体」という強力な免疫機能の生産に関わる免疫細胞の一つです。

免疫機能は強すぎても弱すぎても弊害が出るため、最適なバランスがとれるように制御されています。Th2細胞も同様で、Th2細胞は同じ免疫細胞であるTh1細胞の作用により制御されています。

Th1細胞とTh2細胞は互いに拮抗することでバランスを保っています。Th1細胞が活性化し過ぎるとTh2細胞がそれを制御し、Th2細胞が活性化し過ぎるとTh1細胞がそれを制御します。

しかし、アトピー性皮膚炎の場合はTh2細胞が過剰に活性化している傾向があり、それをTh1細胞が制御しきれていないことが分かっています。

ヨーグルトはそのTh1細胞を活性化する作用があることが確認されているのです。

このTh1細胞の活性化促進作用はヨーグルトがアレルギー症状をに効果的と言われる由縁ですが、アトピー性皮膚炎に関しても同様です。

ヨーグルトはTh1細胞を活性化することでTh2細胞の過剰活性を抑制し、それがアトピー性皮膚炎の予防や症状改善につながっていると考えられています。

実験報告などでは、「アトピー性皮膚炎の症状が緩和した」というものが多いのですが、これは既述の通り、Th2細胞の過剰活性が痒みや炎症の要因にもなっているので、それが抑制されているからと考えられます。

このヨーグルトにおけるTh2細胞の過剰活性を抑制する効果は多くの実験でも確認され、アトピー性皮膚炎を予防したり症状改善する理由として一番有力なものです。

尚、ヨーグルトがTh2細胞の過剰活性を抑制する仕組みは完全には解明されていませんが、ヨーグルトを作る過程において、乳酸菌の醗酵に伴って産出されるEPS(菌体外多糖)という成分がTh1細胞を活性化し、Th2細胞の過剰活性を抑制している考えられています。

2.腸内環境の乱れを改善する

アトピー性皮膚炎などアレルギー症状と腸内フローラ(腸内環境)の乱れは密接な関係があると考えられています。

これはスゥエーデン・カロリンスカ研究所のBjorksten B氏、フィンランド・トゥルク大学のKirjavainen PV氏、日本では帝京大学医学部附属病院の渡辺晋一先生、千葉大学大学院医学研究院の下条直樹先生などによるいくつかの研究報告で示唆されています。

研究報告の内容はほぼ共通しており、アトピー性皮膚炎患者は健常者と比べてビフィズス菌や乳酸菌が少なく、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が多いなど腸内環境が乱れているというものです。

実際にアトピー性皮膚炎は便秘になると症状が悪化する傾向があると言われますが、これも腸内環境の乱れが原因になっている可能性が高いと考えられています。

そのような背景からもヨーグルトはアトピー性皮膚炎に効果的と言われています。

ヨーグルトにはご存知の通り、腸内環境の乱れを改善する効能があります(参照:「ヨーグルトの腸内環境の改善効果」)。

つまり、アトピー性皮膚炎は腸内環境の乱れが一つの要因となっており、ヨーグルトはそれを改善する効能があるというのがヨーグルトがアトピー性皮膚炎に効果的という根拠の一つとなっています。

この根拠の信用性は高いものの、実際にこの根拠を示す研究報告等は少なく、あったとしても前述したTh1細胞の活性化による症状改善と区別されていないためこの根拠を証明するまでには至っていません。

3.保湿効果がある

アトピー性皮膚炎の症状は保湿機能が失われ、肌が乾燥することが大きな要因となっています。ヨーグルトにはこの肌の乾燥を改善することにより、アトピー性皮膚炎の症状を緩和する効果が期待できます。

昔からヨーグルトなど乳酸菌飲料の製造従事者は肌荒れの人が少ないと言われていました。ある研究によると、乳酸菌培養上清(乳酸菌を醗酵させ、濾過した液体)には皮膚の保湿成分であるNMF(整体保湿因子)と似た成分が含まれ、実際に保湿効果が確認されたことが報告されています。

また他にも「からだにぜいたくヨーグルト」に含まれるSBL88乳酸菌やヨーグルトではありませんが「ビフィーナ」というサプリメントで知られるビフィズス菌JBL05株の実験等でも保湿効果が確認されています。

実験報告によると乳酸菌やビフィズス菌が産生する菌体外多糖(EPS,BPS)に保湿作用があることが示唆されています。多糖成分はヨーグルトの粘り気になる成分ですので、他のヨーグルトにもこの効果が見込めると考えられます。

その他にもヨーグルトに豊富に含まれているビタミンAやカルシウムには保湿作用があります。

また、保湿ではありませんが、ヨーグルトには肌を丈夫にしたり代謝を高める美肌成分が含まれています(詳細はこちら「ヨーグルトの美肌効果」を参照)。

こういった肌の保湿や美肌効果によりアトピー性皮膚炎の症状を緩和することも期待できると考えられます。

アトピー性皮膚炎に効くヨーグルト

アトピー性皮膚炎が免疫バランスの異常に起因するとすれば、多くのヨーグルトが免疫調整作用を持っているため、それらは全てアトピー性皮膚炎に効果的と言えるかもしれません。

ただし、ここではより効果的なヨーグルトをご紹介するためにヒトもしくは動物で実験し、効果が確認できたという研究報告があるものをご紹介します。

おなかへGG ヨーグルト

おなかへGG! タカナシ乳業
このヨーグルトに含まれているLGG乳酸菌は大規模な実験を行い、ヨーグルトのアトピー性皮膚炎に対する効果を示したパイオニア的存在で、これ以降ヨーグルトとアトピー性皮膚炎の研究が盛んになりました。

ビヒダス プレーンヨーグルト 森永乳業
BB536というビフィズス菌を含むヨーグルトです。アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー症状改善効果の他、整腸作用から美肌効果、コレステロール低下作用等、多くの効能を持つヨーグルトです。

からだに贅沢ヨーグルトSBL88乳酸菌

からだにぜいたくヨーグルト 安曇野食品工房
前述したSBL88乳酸菌を含むヨーグルトです。免疫調整力だけでなく保湿作用も確認されておりアトピー性皮膚炎に効果的なヨーグルトと言えます。

守る働く乳酸菌 カルピス
アトピー性皮膚炎だけでなく花粉症などへの効果性が確認されているL-92乳酸菌を含んでいます。カルピスがアレルギー症状改善を目的として研究開発した乳酸菌です。ただし、本商品はヨーグルトではなく乳酸菌飲料です。

ダノンビオ ダノン
世界的に有名なヨーグルトですが、これに含まれているBE80というビフィズス菌は動物実験によりアトピー性皮膚炎への効果が確認されています。

カスピ海ヨーグルト フジッコ
カスピ海ヨーグルトではお馴染みのクレモリス菌FC株乳酸菌を含んでいます。動物実験でアトピー性皮膚炎への効果が確認されています。粘り気成分の多糖体(EPS)がアトピー性皮膚炎の予防・症状改善に効果的とするならば、もっとも粘り気のあるこのヨーグルトが一番効果があるのかもしれません。

ヨーグルトを選ぶ際のポイント

ヨーグルトのアトピー性皮膚炎に対する効果は乳酸菌によるところが大きいので、どんなヨーグルトでもアトピー性皮膚炎に効果的というわけではありません。また、乳酸菌は人によって効果性が異なるので自分に合ったヨーグルトを探す必要があります。

いくつかポイントがありますので次にご紹介します。

  • 基本的には上記で紹介したヨーグルトの中から選んでを食べる
  • 2ヶ月食べてみて全く効果がみられないようだったら別のヨーグルトを試してみる。
  • 上記で紹介されていないヨーグルトでもアレルギーに効果的なヨーグルトであれば試す価値はある。
  • 菌体外多糖(EPS、BPS)が有効成分とも考えられるので、カスピ海ヨーグルトなど粘り気の強いヨーグルトは効果が高いかもしれない。
  • ビフィズス菌系のヨーグルトは全般的にアレルギーに対する効果性が高いので、アトピー性皮膚炎にも効果的と考えられます。

どのように食べれば効果的か?

アトピー性皮膚炎を予防・改善するためにはどのくらいの量のヨーグルトをどのくらいの期間食べればよいのでしょうか?

残念ながらアトピー性皮膚炎に効果的なヨーグルトの量や食べる期間を明確に公表しているところはありません。

一般的にヨーグルトの乳酸菌の効果が得られるには1日200gのヨーグルトを毎日食べる必要があると言われます。

アトピー性皮膚炎ではありませんが、アレルギーに対する実験では大体同量のヨーグルトを2~3ヶ月間食べていることが多いので、それが一つの目安になると思われます。

つまり、1日200gのヨーグルトを2~3ヶ月間食べて様子を見るとよいでしょう。もし効果が感じられなかったら他のヨーグルトに変えて、自分に合うヨーグルトを見つけましょう。

尚、効果を感じられたからといって3ヶ月後に食べるのをやめてはいけません。基本的に乳酸菌は体内に定着しないので、食べ続ける必要があります。

【注意】ヨーグルトでアトピー性皮膚炎が悪化することもある

ヨーグルトを食べてアトピー性皮膚炎が悪化したという人も少なからずいます。実際にヨーグルトにはアトピー性皮膚炎を悪化させる要素がいくつかあります。ヨーグルトがアトピー性皮膚炎を悪化させる要素をいくつか紹介します。

1.砂糖

ヨーグルトには砂糖が入っているものが少なくありません。砂糖はアトピー性皮膚炎を悪化させる傾向があります。

砂糖がアトピー性皮膚炎を悪化させる理由には、「血糖値を急激に上げることで痒みが増幅する」「悪玉菌のエサになるので腸内環境が乱れる」「ビタミンを消費する」といった要因があります。

アトピー性皮膚炎の予防や改善を期待する場合は糖質が入っていないヨーグルトを選ぶようにしましょう。甘くしたい場合はオリゴ糖を使うようにしましょう。

2.ビオチン不足

乳酸菌の中にはビオチンを消費してしまうものがあり、それによってビオチン不足になることがあります。

ビオチンは皮膚の代謝に関わっていたり、炎症を抑制する作用がありアトピー性皮膚炎にとって重要な成分と言えます。このビオチンが不足することによってアトピー性皮膚炎が悪化する可能性があります。

ビオチンを消費する乳酸菌とは「フェカリス菌」というものです。フェカリス菌は整腸作用や免疫力を高める効果に優れていると言われ、特に花粉症に効果的と言われる有能な乳酸菌です。

ビオチン自体は比較的容易に摂取できるため不足することは殆どありませんが、リスクを考えるとアトピー性皮膚炎の場合はフェカリス菌入のヨーグルトは避けた方がよいかもしれません。

3.乳糖不耐症

牛乳由来のヨーグルトには乳糖という成分が含まれています。乳糖は乳酸菌のエサであるためヨーグルトを作る過程で少なくなりますが、完全には無くなりません。

アジア人は乳糖を分解するラクタマーゼという酵素が少なく、うまく乳糖を消化できません。それを乳糖不耐症と言い、その結果下痢などの症状が起きます。

下痢を引き起こす胃腸の状態や水分を多く排泄してしまうことがアトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります。

4.牛乳アレルギー

アトピー性皮膚炎患者は食物アレルギーを持っている人が少なくありません。牛乳アレルギーの人がヨーグルトを食べることは稀だと思いますが、牛乳アレルギーまでにはなっていなくても牛乳アレルギーの原因物質であるカゼインへの耐性が弱い人がヨーグルトを食べるとアトピー性皮膚炎の症状が悪化する可能性があります。

⇒ その他のヨーグルトの効果や効能を見る

最後まで読んで頂きありがとうございます

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