ストレスの緩和・解消
ストレスの緩和や解消、睡眠障害の改善など精神安定を促す効果がヨーグルトにはあると考えられています。
しかしながら研究論文や特許情報を調べると、ヨーグルトとストレスの関係を実験し、具体的に効果性を示した報告をあまり見つけることができませんでした。もしかしたらヨーグルトにおけるストレスの緩和や精神安定などはマイナーな効果であるか、もしくはあまり効果性が高くないのかもしれません。
とは言え、実験報告は少ないもののヨーグルトや乳酸菌に関する文献にはストレス緩和や精神安定の効果が頻繁に言及されているのも事実です。
恐らく、効果性はある程度示唆されているものの、この分野の研究の歴史が浅かったり、研究動機が弱い、もしくはヒト試験が難しいなどの理由があるのでしょう。
事実、少ないながらもヨーグルト(乳酸菌)のストレス緩和・解消効果に関する研究報告等を見ると効果の根拠がきちんと示されており信ぴょう性を感じます。
このページでは、そのようなヨーグルトにおけるストレスの緩和や解消、睡眠障害の改善など精神安定を促進する効果に調べたことをまとめてあります。ご興味があればご覧ください。
ヨーグルトにおけるストレス緩和・解消効果とは?
ストレスとは簡単に言うと肉体的及び精神的に受ける苦痛のことです。ストレスによって起こる健康被害をストレス症状と言いますが、主なものに「イライラ」「頭痛」「睡眠障害(不眠症)」「腹痛」「便秘」「下痢」「過敏性腸症候群」「自律神経失調症」「うつ病」などがあります。
症状によってストレスの原因が分かれているわけではないため効果性を症状別に分けることは適当ではないですが、研究実績に照らし合わせるとヨーグルトはストレス症状の中でも便秘や下痢、過敏性腸症候群などの消化器官への症状および睡眠障害や不眠症への効果性が高いようです。
そもそもヨーグルトには整腸作用があるため、便秘や下痢はストレスに対する効果と無関係と思われがちですが、そうではなくストレス性の便秘や下痢に特に効果がみられるということです。その良い例が過敏性腸症候群に対する効果で、これは正にストレスを緩和することで症状を改善していると言えます。
イライラや自律神経失調症、うつ病などその他の症状に対しても効果はあると思われますが、有力な研究報告はあまりありません。
ヨーグルトの効果は緩やかな上、明確な結果が出にくいため、まだこれらの症状に対する確証を得られない段階なのだと思います。ヨーグルトがストレスを緩和する仕組みを見ると、これらの症状においても効果的と考えられるので今後の研究発表に期待です。
ヨーグルトがストレスを緩和・解消する仕組み
ヨーグルトがストレスを緩和したり解消する仕組みにはいくつかのキーワードがあります。言い換えるとストレス緩和を証明する理由と言えるかもしれません。それは次のキーワードです。
詳しくご説明します。
脳腸相関
「脳腸相関(Brain-Gut axis)」とは脳と腸は密接な関係にあり、互いに影響し合っているという概念です。この概念は近年医学分野でも注目されており、様々な研究が行われ始めています。
腸は単なる消化器官ではなく、人間が活動する上で非常に重要な免疫系・神経系・内分泌系といった組織がもっとも集まっている器官です。
その為、腸は「第二の脳」と言われ、脳と共に体の調子に大きな影響を与えるのです。それ故、脳と腸は相互に情報を伝え合い体の働きを調整しています。
このように脳と腸は密接に関わっているため、お互いの調子も影響することが分かってきています。「不安を感じるとお腹が痛くなる」現象はこの関係を分かりやすく表しています。
逆に腸の不調が神経系や免疫系を通して脳に伝わり、抑うつ症状や不安などのストレスを促進することも分かっています。
一方、脳腸相関は悪い面だけではなく、腸の調子が良くなることで脳のストレスが軽減することも実験等で確認されています。研究で言及されることはありませんが、ごはんを食べて満腹になった時に感じる満足感や美味しいものを食べた時に感じる幸せ感はこのせいかもしれません。
そして、脳に感じるストレスは単に腸の働きを鈍らせるだけでなく、腸内細菌叢(腸内フローラ)の状態も悪化させることが分かっています。ストレス性の便秘や下痢などはこれらの影響の元に発症する顕著な例です。
このように脳と腸だけでなく腸内細菌とも密接な相関関係があることから、脳腸相関をさらに押し進めた「脳-腸-腸内細菌軸(Brain-Gut-Microbiota axis)」という概念が注目され始めています。簡単に言うと、腸内細菌が脳の働きに影響を与えるということです。
そして、この概念こそがヨーグルトにおけるストレス緩和・改善効果の一番の仕組みなのです。
ご存知の通りヨーグルトには整腸作用(詳細は「ヨーグルトの腸内環境を改善する効果」参照)があります。
前述した通り、ストレスによって腸内環境が乱れることは実験等により確認されています。そして、まだ研究数は少ないものの腸内環境を整えることによってストレスを緩和・解消する効果も確認されつつあるのです。
つまり、ヨーグルトは整腸作用によって腸の調子を整え、その状態が脳に伝わることでストレスの緩和・解消を促進することが期待できるのです。これがヨーグルトにおけるストレス緩和効果の最大の仕組みと考えられています。
GABA(γ-アミノ酪酸)
あるラットの実験でヨーグルトに含まれる乳酸菌などのプロバイオティクスを豊富に与えたネズミは水中に落とすなどストレスの多い条件下においた場合、通常のネズミよりも不安行動を示すことが少なく、ストレスホルモンの分泌が少ないことが確認されています。
さらにプロバイオティクスを豊富に与えたネズミの腸と脳の神経を切断したところ、上記のような変化はみられなかったということです。このことからプロバイオティクスが腸に影響を与え、更に腸から脳への神経伝達でストレスが軽減していることが分かります。
この行動の変化を追求していくと、神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が関与しており、記憶、感情の制御に関わる領域においてGABA受容体が増えていたことが確認されました。これは人間における抗不安剤の作用と同様の現象です。
ヨーグルトはプロバイオティクスを含む代表的な食品ですので、ヨーグルトがGABA受容体を増加させることは容易に推測できます。また、ある乳酸菌においては実際にGABA受容体を増やす効果も確認されています。
このような実験結果は他にも多数あり、ヨーグルトのストレス緩和・改善効果にGABA(γ-アミノ酪酸)が関与していることが示唆されています。
セロトニン
セロトニンは神経伝達物質の一つです。体温、睡眠、脳内物質や血管運動の制御、腸の蠕動運動など自律神経系に関与する非常に重要な物質です。
セロトニンが正常に作用することは健全な体調と言えることから「幸せホルモン」とも呼ばれています。抗うつ薬などにも利用される物質で精神安定やストレスにも深く関わっています。
最近の研究ではある乳酸菌がセロトニンの放出を促進し、ストレス性の睡眠障害を改善する効果があることが確認されています。
その乳酸菌を含むヨーグルトも販売されているため、そのヨーグルトにはストレス緩和やストレスに伴う睡眠障害に対する効果が期待できると考えられます。
セロトニンの90%は消化管で産生されるので、もともと腸内細菌とセロトニンの関係は深いと推測できます。その事実が研究によって改めて確認されたと言えるのですが、まだこの研究は不完全と言えます。
なぜならば、セロトニンは確かに脳内における神経伝達物質なのでストレスなど精神安定に深く関わっていると考えられますが、消化管で産生されるセロトニンは脳内に到達することができません。
つまり、乳酸菌によって産生が促進されたセロトニンは直接脳内物質として作用するのではなく、間接的に精神に作用していると考えられます。
先の実験でも作用に関しては具体的な記述がなく、「今後、この乳酸菌の様々な機能のメカニズムを詳細に解析していく」となっていることから、近い将来、新たな事実が発見されるのかもしれません。
このことはヨーグルトとセロトニンに関してだけでなく、前述した「脳腸相関」「GABA」との関係においても同様の状況です。これはストレスが末梢器官に与える影響に関する研究は多くあるものの、その逆(つまり末梢器官がストレスに与える影響)に関してはあまり注目されていなかったためと言われています。
しかし、近年「腸内環境」及び「神経科学」「分子生物学」といった分野の発展により、末梢器官とストレスに関する研究も急速に増えてきています。乳酸菌はその分野のキーファクターでもありますので、今後、ストレス緩和に対する新たな発見や、その効果を活かしたヨーグルトの登場に期待が持てます。
ストレスに効果的な乳酸菌とヨーグルト
前述した脳腸相関の概念が正しければ、市販されている殆どの乳酸菌やヨーグルトがストレスに効果的と言えます。実際にその可能性は低くないと思うのですが、ここでは具体的にストレス緩和(精神安定的な要素を含む)に効果的ということが公表され、実際に研究報告がある乳酸菌とその乳酸菌を含む製品をご紹介致します。
尚、現在のところ純粋にヨーグルトとしてご紹介できるのは最初の「からだにぜいたくヨーグルト(安曇野食品工房)」のみで、その他はヨーグルトではなく乳酸菌飲料およびサプリになります。
ストレスの緩和・解消効果が期待できる乳酸菌は以下の通りです。
SBL88乳酸菌
「SBL88乳酸菌」はサッポロビールが開発した大麦に由来する植物性乳酸菌で、正式には「ラクトバチルス・ブレビス SBC8803(Lactobacillus brevis SBC8803株)」と言います。
サッポロビールの研究報告ではラットによる実験で、SBL乳酸菌によるストレス緩和に作用するセロトニンの放出促進効果やストレス性の睡眠障害の改善効果が確認されています。
「SBL88乳酸菌」を含むヨーグルト
からだにぜいたくヨーグルト 安曇野食品工房
B.ビフィダム Y株
「B.ビフィダム Y株」はヤクルトが開発したビフィズス菌で、正式名は「ビフィドバクテリウム ビフィダム YIT 10347(Bifidobacterium bifidum YIT 10347)」と言います。
ヤクルトの研究報告では、「B.ビフィダム Y株」を4週間摂取した後、ストレスにより上昇することが知られている唾液中のコルチゾール濃度の低下、及びPOMS短縮版(気分プロフィール検査)において「イライラ感(怒り)」スコアの低下、「活気」スコアの向上が確認されています。
「B.ビフィダム Y株」を含む製品
BF-1 株式会社ヤクルト
MG2809乳酸菌
「MG2809乳酸菌」は明治が開発した乳酸菌で、正式名をラクトバチルス・ガセリ OLL2809株(Lactobacillus gasseri OLL2809)といいます。
明治の研究報告ではラットの実験で、「MG2809乳酸菌」によりストレス下で増加するストレスホルモンの血中コルチコステロンが通常時よりも減少していることが確認されています。
「MG2809乳酸菌」を含む製品
栄養スムース 株式会社明治
ストレスを緩和するためのヨーグルトの食べ方
現在のところ、ストレスを緩和・解消させる特別なヨーグルトの食べ方というものはありません。ですので脳腸相関の概念を考慮して、まずは腸内環境を整えるヨーグルトの食べ方をすれば良いでしょう。
食べる量
最低1日200g以上、できれば400g食べるのが望ましいと言えます。1日ですので、朝、晩2回に分けても3回に分けても構いません。
食べるタイミング
特に決まりはありませんが胃酸が濃い食前は避け、食後2~3時間以内が良いでしょう。睡眠障害や不眠症の傾向がある場合は、睡眠導入のためにも夕食後に食べ、ヨーグルトが消化される2~3時間後に寝るのが良いと考えられます。
食べる期間
ヨーグルトや乳酸菌は薬ではないので即効性はなく、腸が乳酸菌に慣れるまで時間がかかります。大体その期間は2週間程度と言われますので、最低でも2週間以上、できれば1ヶ月は食べ続ける必要があります。
尚、ヨーグルト等で摂取する乳酸菌は殆ど腸に定着することはありません。ですので、効果を持続させるためには継続して食べ続ける必要があります。
また、乳酸菌は人との相性がありますので、1ヶ月程度同じヨーグルトを食べても全く効果を感じないようであればヨーグルトの種類を変えて試して下さい。
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