免疫力を高める
「免疫力を高める食べ物」といった時、ヨーグルトは必ずと言っていいほどその中に含まれている食材です。事実、免疫力を高める作用は腸内環境の改善(整腸作用)と並び最もヨーグルトに期待できる効果と言えます。
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の緩和やインフルエンザ・風邪予防、癌(がん)予防等々ヨーグルトにおける多くの効果の根本には免疫力を高める働きがあります。
とはいえ、免疫学の歴史は浅く、ヨーグルトと免疫の関係が発見されたのも最近のことです。現在もヨーグルトの免疫力を高める効果を調べる研究は盛んに続けられており、今後も更なる発見が期待されます。
免疫力とは?
私達の体は目に見えないウイルスや病源菌などに囲まれ、絶えず体の中へ侵入される危険にさらされています。この外部からの異物から体を守る力が免疫力です。免疫力が無ければ私達は1日たりとも健康に過ごすことはできないでしょう。
私達が持っている免疫システムは複雑で非常に強力です。約2兆個とも言われる免疫細胞が体中を監視し、異物を見つけると攻撃、全滅させます。攻撃の方法は数種類あり、様々な異物に対応できるようになっています。さらに、攻撃の仕方を学習して同じ異物に対してはより効率的に対処できるようになっています。
ヨーグルトが免疫力を高める理由
ヨーグルトには既述したような免疫システム全体を好調にしたり、特定の免疫細胞を活性化させる効果があることが分かってきています。
ヨーグルトが免疫力を高める理由には次のようなものがあります。
腸内環境を良好にする
ヨーグルトには腸内環境を良好にする効能(詳細はこちら「ヨーグルトの腸内環境改善効果」を参照)がありますが、これが免疫力を高める一つの理由となっています。
腸と免疫力の関係
腸内環境は免疫力と大きな関わりがあります。腸内環境が乱れると免疫力は大きく低下します。事実、歳をとって免疫力が弱まるのは腸内細菌(善玉菌)が減少し、腸内環境が乱れやすくなっているからとも言われています。
免疫細胞は体中にありますが、特に外部からの異物と接触する場所に多く存在しています。例えば、鼻や喉の粘膜、気管支、胃、腸などです。
特に腸には全免疫細胞の60%以上が集中しており、体内で最も免疫力が強力な場所です。腸は(食物という)異物を体内に吸収する場所ですから当然と言えば当然です。
もし、腸の免疫力が弱ければ容易に有害物を吸収してしまうことになり、たちまち細菌やウィルスが体内に侵入してくるでしょう。そうすると他の免疫システムの負荷が高まり、体全体の免疫力が落ちていきます。
腸の免疫力が弱まる要因に腸内環境の乱れがあります。つまり腸内細菌の悪玉菌が増加することです。事実、歳をとって免疫力が弱まるのは腸内細菌(善玉菌)が減少し、腸内環境が乱れやすくなっているからとも言われています。
ヨーグルトは間接的に免疫力を高める
ヨーグルトには直接的に腸の免疫力を高める作用があるわけではありません。しかし、ヨーグルトは腸内環境を改善することによって腸の免疫力の低下を防ぎ、結果として体全体の免疫力を高めます。
後述しますが、ヨーグルトには他にも免疫力を高める理由があります。しかし、直接的ではないもののこの腸内環境を改善する作用が免疫力を高める最大の理由と言えるのです。
マクロファージを活性化させる
ヨーグルトにはマクロファージを活性化させることがいくつかの研究で分かっており、これが免疫力を高める一つの要因になっています。
マクロファージとは?
マクロファージとは免疫細胞の一つで、有害物が侵入してきた時に最初に攻撃を仕掛けるのがマクロファージです。また、マクロファージは攻撃をしながら情報を収集し、免疫細胞の司令塔とも言えるT細胞にその情報を伝えます。T細胞はその情報を元に効率的に有害物を攻撃する対策を立て、他の免疫細胞はその指示に従って有害物を攻撃、排除します。
つまりマクロファージは免疫力の重要な起点で、マクロファージの働きが弱いと免疫システム全体が効率的に機能しなくなります。
ヨーグルトがマクロファージを活性化させる仕組み
多くの研究でヨーグルトがマクロファージを活性化することは確認されていますが、その仕組みは明確にはなっていません。
しかし、研究の過程からマクロファージは乳酸菌と乳酸菌が発酵する際に産生するたんぱく質分解物、多糖、有機酸により活性化することが確認されています。中でも、カゼイン由来ペプチドとリン酸化多糖がマクロファージ活性化に大きく関与していると考えられています。
カゼイン由来ペプチドやリン酸化多糖はまさにヨーグルトを作る過程でできる物質ですから、ヨーグルトが免疫力を高めるという理由の裏付けとなります。
NK細胞を活性化させる
ヨーグルトが癌(がん)に効果的と言われるのはこのNK細胞を活性化させる効能によるものが大きいと言えます。
NK細胞とは?
NK細胞は正式名とナチュラルキラー(natural killer)細胞といい、免疫細胞の一つです。
なぜNK細胞が”ナチュラルキラー”と名付けられていると言うと、他の免疫細胞の殆どが司令塔であるT細胞を中心に組織的な攻撃をするのに対し、NK細胞は単独で攻撃を行うためです。
これはNK細胞の役割が他の免疫細胞と大きく違うことに起因しています。
通常、免疫細胞は異物に対して攻撃を行います。しかしそれだと元々体内にある細胞が有害化した場合に対処ができません。体内にある細胞は異物ではないからです。
NK細胞はそういった有害化した細胞を攻撃を開始します。正確には攻撃ではなく細胞をアポトーシス(自然死)に導くという、他の免疫細胞とは全く違う機能を持っています。
有害化した細胞の代表例は癌(がん)やウィルス感染した細胞です。NK細胞が癌(がん)の予防や改善に重要と言われるのはこのためです。
ヨーグルトがNK細胞を活性化させる仕組み
マクロファージの現象と同様にヨーグルトがNK細胞を活性化させることは多くの研究で確認されていますが、その仕組みを具体的に解明しているケースは多くありません。
その中で、「明治プロビオヨーグルト R-1」を販売している株式会社明治の研究ではかなり詳細にこの仕組みを探求しています。
その研究によると、ヨーグルトを作る過程において産生される酸性EPS(菌体外多糖)がNK細胞を活性化させていると結論付けています。
酸性EPSというのは乳酸菌の発酵により産生するもので、体内においてIFN-γというインターフェロン(免疫における伝達物質)の産出を増やす働きがあるとされています。
IFN-γはNK細胞を作用させる物質の一つですので、IFN-γの増加がNK細胞を活性化につながっているという見解です。
余談ですが、明治ではこの仕組みを利用して、酸性EPSを多く産生する乳酸菌を探し、見つけたのが1073R-1株です。そしてその乳酸菌で作られたヨーグルトが「明治プロビオヨーグルト R-1」ということです。
尚、さらに余談ですが、この研究で興味深い記述があります。それは1073R-1株でヨーグルトを作る際、「無脂乳固形分が多い」「低温発酵」「緩衝剤として リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)を加える」といった条件の時が最もEPS産生量が増加したとのことです。
インターフェロン(INF-γ)を増加させる
ヨーグルトが免疫力を高める最大の要因はこのインターフェロン(INF-γ)を増加させることかもしれません。
インターフェロンとは?
インターフェロンとは免疫細胞間における情報伝達物質の一つです。免疫細胞は組織的な行動をとりますが、その行動を制御しているのは「情報」です。
この場合の「情報」とは、有害物を知らせる「信号」であったり、有害物を攻撃の「指示」だったり、有害物そのものの「情報」だったりします。免疫細胞間におけるこの「情報」はサイトカインと呼ばれる物質によって伝達されます。
免疫細胞の働きはこのサイトカインによって左右されるので、サイトカインは免疫力を高める重要な要素となります。
サイトカインには数種類の物質があり、インターフェロンはその一つです。インターフェロンは主に細胞がウィルスに侵されたり、腫瘍化するなど異変が起きた時に活躍する物質です。インターフェロンは情報伝達だけではなく、異変が起きた細胞の増殖を阻止する働きもあります。
このインターフェロンはその性質から、各肝炎や白血病、癌(がん)の治療薬としても用いられています。
ヨーグルトが増加させるのはINF-γ
インターフェロンにはいくつか種類があり、代表的なのはINF-α、INF-β、INF-γです。免疫作用が強力なのはINF-α、INF-βです。
ヨーグルトが効果を持つのはINF-γです。INF-γはINF-αやINF-βとは少し作用が違い、どちらかと言うと、他の免疫機能を活性化させる性質が強くあります。
INF-γが活性化するのは、同じインターフェロンのINF-αやINF-βであったり、マクロファージ、NK細胞などです。
このことから、ヨーグルトの免疫力を高める効果というのは、このINF-γというインターフェロンを増加させることが根本にあると推測できます。
さらにINF-γで重要なのは免疫力を調節する働きもあることです。詳しくは後述しますが、この働きがヨーグルトのアレルギー改善効果につながっていると考えられます。
ヨーグルトがインターフェロン(INF-γ)を増加させる仕組み
ヨーグルトがインターフェロン(INF-γ)を増加させるのはマクロファージやNK細胞の時と同様に、乳酸菌が発酵する際に産出されるリン酸化多糖をはじめとする酸性EPS(菌体外多糖)によるものという考えが優勢です。
肝臓の働きを良好にする
間接的ではありますが、ヨーグルトには肝臓の働きを良好にする効果があります。これが免疫力を高める要素となります。
肝臓と免疫力の関係
肝臓と免疫力は密接な関係があります。肝臓にはいくつかの機能がありますが、その中でも重要なのが有害物を解毒する機能です。
解毒には有害物を分解して無害化する方法があり、これも広義の意味では免疫機能と言えると思いますが、それとは別に免疫細胞によって有害物を解毒(処理)する方法があります。
肝臓にはクッパー細胞と言われる肝臓用のマクロファージやNK細胞、T細胞といった免疫細胞が多く存在し、それらが有害物を処理しています。
肝臓には他の免疫機能で処理できなかった有害物が血液によって送り込まれてきます。つまり、肝臓は免疫力の最後の砦とも言える重要な場所なのです。
肝臓が弱ると病気になりやすくなったり体力が低下すると言われるのはその為です。逆に肝臓の働きが良好であれば免疫力が高まるというわけです。
ヨーグルトが肝臓の働きを良好にする仕組み
ヨーグルトには肝臓の働きを良好にする要素が2つあります。
一つは腸内環境を良好にすることで肝臓の負担を軽くすることです。肝臓に最も負担のかかる役割りとは消化と解毒です。少々内容は違うものの、これは腸にも同じことが言えます。
腸と肝臓は持ちつ持たれつの関係にあるのです。腸の働きが大きければ肝臓の負担は軽くなり、逆の場合は肝臓の負担が大きくなります。
つまり、腸内環境を良好にするヨーグルトは結果的に肝臓の負担を軽くして、肝臓の働きを良好にするのです。
二つ目はヨーグルトに含まれる栄養です。ヨーグルトには肝臓に必要なビタミンやたんぱく質が豊富に含まれています。これが肝臓を元気にして機能を高めてくれます。
この二つの要素でヨーグルトは肝臓の働きを良好にして、免疫力が高まるというわけです。
ヨーグルトは免疫力を高めるだけでなく免疫システムを正常化させる作用がある
前述のようにヨーグルトには免疫力を高める効果がありますが、少し違う面の効果が近年報告されています。
それは「免疫力を調整する」効果があるというものです。
免疫力は強ければ良いというものではありません。勿論、免疫力が弱ければ病気になりやすくなったりしますが、逆に免疫力が強すぎると過剰反応してしまい、有害物とはならない微量の異物に対しても攻撃したり、正常な細胞を攻撃するようになってしまいます。その代表的な例が花粉症や気管支喘息などのアレルギー症状です。
つまり、免疫力は強すぎても弱すぎてもダメで、バランスが非常に重要なのです。
近年、免疫バランスに関する研究は盛んに行われていて、免疫力のバランスを調整しているのはTh1細胞とTh2細胞というものが大きく関係していることが確認されています。
Th1細胞とTh2細胞は免疫システムの司令塔であるT細胞の一種です。Th1細胞は主にマクロファージやNK細胞を活性化させる性質があり、Th2細胞は抗体生産を活性化させる性質があります。
抗体というのは有害物を攻撃する非常に強力な武器の一つで、同じ武器であるマクロファージやNK細胞が自分が認識できる異物をあたり構わず直接攻撃するのに対し、抗体は異物の情報を分析し、その異物に合った武器となって的確に異物を排除します。
ところが、この抗体生産が過剰になると必要以上の抗体が作られることとなります。これがアレルギー症状の原因となります。現在ではアレルギー症状の原因は抗体の一種であるIgE抗体が過剰に生産されていることにあるというのが大方の認識となっています。
この抗体の過剰生産の元を辿るとTh2細胞の過剰活性に行き着きます。Th2細胞が過剰活性する理由はまだ明確になっていませんが、Th2細胞とTh1細胞は拮抗関係にあり、またTh1細胞から産出されるINF-γというインターフェロンにはTh2細胞の過剰活性を抑制することが分かってきています。
ヨーグルトが免疫バランスを調整する仕組み
ヨーグルトがアレルギー症状の予防・改善に効果があるのは、この免疫バランスを調整する効能があるからと考えられています。
ヨーグルトが免疫バランスを調整する仕組みにはINF-γというインターフェロンを増加させる働きがあることが関係しています。
前述の通り、ヨーグルトにはINF-γを増加させる性質があります。INF-γはTh2細胞の過剰活性を抑制する働きがあります。Th2細胞の働きが抑制されれば過剰な抗体生産がなくなり正常な免疫バランスを保つことができるというわけです。
このようにヨーグルトは単に免疫力を強くするのではなく、免疫力のバランスも調整するなど、本当の意味で免疫力を高める効果があると言えます。
免疫力を高めるヨーグルト
免疫力を高める効果は多くのヨーグルトに期待できますが、ここではその中でも臨床実験等でその効果が実際に確認されたヨーグルトをいくつかご紹介します。
免疫力を高め、インフルエンザや風邪予防の効果を目的として開発されたヨーグルト。免疫力の中でもガン予防等に効果的なNK細胞の活性作用が確認されています。免疫力を高めるヨーグルトの筆頭と言えるでしょう。
小岩井乳業とキリンビバレッジが共同開発した「プラズマ乳酸菌(JCM5805株)」を含むヨーグルト。免疫細胞の一つで、ウィルスなどの異物を判別し攻撃指示を与える働きのあるpDC(形質細胞様樹状細胞)を活性化させることが確認されているヨーグルトです。
「プラズマ乳酸菌ヨーグルト KW乳酸菌」のキリンビバレッジ版です。ヨーグルトテイストであり、厳密にはヨーグルトではありません。また、KW乳酸菌も含まれていません。
ビフィズス菌「BB536」を含むヨーグルト。免疫力を高める効果だけでなく、整腸作用やコレステロール値の低下作用など幅広い効果を持つヨーグルト。
京漬物から発見された「ラブレ菌(KB290株)」という乳酸菌を含むヨーグルト。このラブレ菌はNK細胞やインターフェロンを活性化かせることが実験等で確認されています。
プロバイオティクスの先駆的存在でもあり、世界的にも知られているGG乳酸菌を含むヨーグルトです。ヨーグルトの殆どの効能はこのGG乳酸菌から発見されたと言っても過言ではありません。その数多くの効能は免疫力を高めることが根底にあることが示唆されています。
クレモリス菌という乳酸菌を含む、粘り気のある独特の食感が特徴のカスピ海ヨーグルトですが、この粘り気は免疫力を活性化させるとされるEPSが多く産生されているためです。研究報告によるとT細胞やNK細胞を活性化させるINF-γの産生を促進することが確認されています。
雪印メグミルクの代表的なヨーグルト。ビフィズス菌とガセリ菌SP株という2つの機能的な乳酸菌が含まれているヨーグルトで幅広い効能が確認されています。トクホに認可されている整腸作用がメインですが、免疫力を高める効果も確認されています。
Bb-12という酸に強いという特徴を持つビフィズス菌が含まれているヨーグルトです。酸に強いことから生きたまま腸に届きやすい乳酸菌として知られ、マクロファージを活性化させるなど免疫力を高める効果も確認されています。
ヨーグルトと免疫力のまとめ
ヨーグルトが活性化させるマクロファージやNK細胞、免疫力のバランス調整は全てINF-γと関係があるので、ヨーグルトが免疫力を高める鍵はINF-γにあるのかもしれません。
そして、このINF-γは乳酸菌が発酵する時に産生される物質(EPS)が大きく関与していると考えられています。
ただし、免疫学の歴史はまだ浅く、ヨーグルトと免疫力の研究も現在盛んに行われている段階なのです。
事実、INF-γを増加させるというのはラクトバチルス属(Lactobacillus)乳酸菌を含むヨーグルトにおける研究報告が多いのですが、最近ではラクトコッカス属 (Lactococcus)乳酸菌を含むヨーグルトにINF-α、INF-βの産生誘導が見られたという研究報告もあります。
INF-αやINF-βはINF-γと同じインターフェロンの種類ですが、肝炎やウィルス、腫瘍などに対する免疫作用に優れ、INF-α・INF-β自身も直接的に有害物を攻撃する強力なインターフェロンです。
このように、今後、ヨーグルトと免疫力に関する更なる解明が進んでいくと思われます。
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